2010年 02月 18日

エリック・ロメールに出会ったころ

a0140789_133016.jpg
 
             先日、お弁当やら朝ごはんの用意で、
             キッチンがひっくり返っている朝。
             「ロメールが死んだよ」
             彼がそう言った。
             「ああ、死んだの」
             と答えたきり、会話が途切れてしまったけれど
             ロメールと聞いて、思い起こすことはいっぱいあった。

             ロメールははじめから、おじいさんだったもの。
             何しろ60歳になってから映画を撮り始めたひとだ。
             しかし、素知らぬ顔で、すさまじくエロティックなおじいさんのようだった。

             初めて観た映画は『クレールの膝』。
             うーん、へーんなの。
             変な映画だ。
             女性の膝に執着するそのフェティシズムに
             ちょっと引いた。
             好みとはいえないな。
             そんな感想しか持てなくて、
             いっしょに行ったひとたちをがっかりさせてしまった。

             それから、ずいぶんたって、
             町の小さな映画館がロメールの特集を組んだ。
             毎日通って、相当数を見ることになったのは、
             彼の最新作が『ともだちの恋人』のころのこと。
             1987年あるいは1988年だったかもしれない。
             マ**の、何という通りであったか、
             そのあたりに車を止めると、
             切り取った絵はがきのようによくできた構図で
             ****寺院が見えるところだった。
             買ったばかりの靴が、犬の糞を踏んでしまったのもその通り。
             中年のややくたびれた男女が、静かに深夜の映画館に吸い込まれてゆく。
             深く根付いた大人の文化に触れたのもそこだった。

             ロメールの作品の中で、なじみやすかったのは『満月の夜』。
             当時フランス語を教えてもらっていた18歳の女の子が、
             真冬に真っ白の果物かごをバック代わりに下げて訪ねてきたことがある。
             「まあ、その白いかご、エリック・ロメールの...」と叫んだ私に、
             まさにそれは正解で、彼女は主演のパスカル・オジェ(上の写真)という女優に傾倒しており、
             『満月の夜』がフランスのティーンエイジャーの間で、
             ファッションバイブルになっていると教えてくれた。
             また共演のファブリス・ルキー二が、
             近くのカフェに顔を出したとき、
             幸運にもちょっとおしゃべりができたと興奮気味に語ってくれたこともあった。

             日本に戻ってからは
             『夏物語』『冬物語』など彼の作品を懐かしさとともに観続けた。
             フェティシズムにも慣れるものだ。
             日常生活そのままの等身大のフランスが
             いつも裏切られることなく、そこには描かれていた。

             彼の映画でいちばん好きなのは、今でも『満月の夜』。
             私もパスカル・オジェが好き。
             次に好きなのは『夏物語』ということにしておこう。

             もうこんな軽い映画を撮る監督は出てこないのじゃないか。
             軽くて、なんと美しい、まぶしいような、洒脱な男と女の映画を撮るひとだったのだろう。
             新作が見られないのは、フランスと私の間を結んでいたものも
             だんだん曖昧に消えてしまうようで、とてもさびしい。
             『緑の光線』というのも、いい映画だったなあ。


by mllegigi | 2010-02-18 16:15 | 映画


<< 春一番の菜花3種      まだ寒い日の豚汁 >>